気づいた時には、手の施しようがありませんでした。愛する妻とせめてもう一度、散歩がしたいという願いも虚しく、リュウイチさんの体は、蝕まれていきます。
亡くなる数日前、担当医は、リュウイチさんに、自分が以前死を看取った患者さんの話をしました。
その人は、「肉体は滅んでも、魂は残ると思うんです。私が亡くなった後、風もないのにろうそくの炎が揺れたら、それは自分がやったことだと思ってください」と言って、息をひきとったそうです。
その話を聞くとリュウイチさんは安らかな気持ちになり、「天国で先生の席は、空けて待ってますから、お酒でも呑みましょう」そんな軽口を言うと、非常に穏やかな顔で、翌日、旅立ちます。41歳でした。
あれから11年。今でも、奥さんは、リュウイチさんがいつも見守っていてくれると思っています。